IODPで掘削されるピストンコアにおける問題点 †はじめに †ODP, IODPのAPC(Advanced Piston corer)コアでは、コアの採取時あるいは採取後測定までの間に、さまざまな二次的磁化が獲得されることがある。コアを研究に用いるためには、以下に紹介するような問題が起こり得ることを認識しておくことが必要である。 コア境界の汚染・乱れ †9.5m単位で掘削されるODP, IODPのAPCコアでは、その境界部(各コアの最上部)の堆積物が物理的に乱されていることが少なくない(写真1)。コアの注意深い観察が必要である。鉄サビやコアビットの破片等の異物が混入している場合もある(図1)。
フローイン(flow-in) †フローインとは、コアキャッチャー直下の堆積物がピストンによる陰圧で吸い込まれたもので(写真2)、サンプルとしての価値はない。Suck-inと記載される場合もある。ODP, IODPのAPCに限らず、ピストン・コアラーで普遍的に起こり得る。通常のピストンコアではフローインの下に正常な堆積物が採取されることはないが、ODP/IODPのAPCでは9.5m単位のコアの途中で起きているケースもある(写真3)。鉛直方向の筋状の模様として普通は肉眼で容易に認識できるが、均質な堆積物では認識しづらいこともあるので要注意。残留磁化としては、その上下の正常な堆積物の部分とは整合的でない方位を示し、かつ強度変化が少ない場合が多い。
掘削時二次磁化 †大きく分けて、交流消磁で除去可能なIRMと、交流消磁で除去できない二次磁化がある。 IRM †ODP, IODPのAPCのカッティング・シューやコア・バレルは、一般にかなり強く帯磁している。これが原因で、サンプルがコアリング時にIRM(等温残留磁化)を獲得してしまうことが起きる。このIRMは鉛直に近い下向き方向の(上向きの場合もある)かなり強いもので、APCで採取される堆積物コアに限らず、ロータリーで掘削される火山岩でも普遍的に認められる。IRMであれば、30mT程度までの交流消磁で除去可能である(図2)。
交流消磁で除去できない二次磁化 †ODP/IODPのAPCコアを用いた古地磁気研究で最も深刻な問題は、交流消磁では除去できない二次磁化を獲得している場合があることである。二次磁化が交流消磁で除去できないということは、初生磁化成分(DRM:堆積残留磁化)と二次磁化成分の保磁力分布がほとんど同じとであり、DRMを担っていた磁性鉱物が再帯磁に参加していることを意味している。この二次磁化には熱消磁も有効でない。 この二次磁化は、コアの動径方向(radial)成分(ほとんどの場合は内向きだが、外向きの報告例もある。以下は内向きとして議論)を持つことが知られている(図3, 4)。従って、この二次磁化の存在は、次の現象から察知することができる。この二次磁化を被ると、Archive halfのコア表面に垂直方向を+X軸とするIODPの座標系("図5'')において、APCコアの半割り面は地球座標系では9.5m単位でランダムな方向を向いているはずであるにもかかわらず、Archive halfでは0°方向、Working halfでは180°方向に残留磁化方位が集中することになる。つまり、半割りコアの両サイド(Archive halfとWorking half)で磁化方位が一致しない。
ピストン・コアでは、コアライナーに沿った引きずりにより、堆積物が端の方では大なり小なり変形しているのが普通である(写真4)。Acton et al. (2002)は、堆積物の変形をシアーによる回転でモデル化することにより(図6)、掘削時二次磁化を説明できる場合があることを示した。これが成り立つ場合には、変形した部分の体積が全体に占める割合の大きい半割コアのパススルー測定では影響が大きいが、ほとんど変形の認められないコアの中心部からu-channelまたはcubeを採取することにより、二次磁化の影響から逃れることができるはずである。しかし、掘削時二次磁化が深刻な場合には、コアの中心からサンプルを採取しても二次磁化から逃れられなかったケースも知られていて(例えば、ODP Leg 154)、すべての場合をこのモデルで説明することはできない。磁化率異方性データに基づく堆積物の変形と、この二次磁化との関係が必ずしも明瞭ではないことも、堆積物の変形だけではこの二次磁化を説明できないことを示している(Bowles, 2007)。
経験的には、炭酸カルシウム含有量の大きい堆積物でこの二次磁化の影響が深刻な傾向があることが知られている(e.g., Fuller et al, 2006; Bowles, 2007)。 "Storage Diagenesis" †コア採取から測定までの間に磁化が変化してしまうことを総称して、storage diagenesisと呼ばれる。ODP時代にパススルー磁力計が導入され、船上でコア採取後すぐに残留磁化を測定できるようになってから、このような問題があることが認識されるようになった。強還元環境の堆積物では、コア採取後数日〜数ヶ月の間に、残留磁化強度が10分の1程度になってしまう場合があることが知られている(図7) (e.g., Yamazaki et al., 2000)。強磁性鉱物が酸素に触れることにより起きると推定されるが、その具体的なプロセスはまだ解明されていない。このような堆積物では、堆積物の色も短時間で変化する。
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参考文献 †
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