測定装置 †強磁場中で磁性体から生じる比較的弱い磁場を測定する装置はいくつか存在する.代表的なものは振動試料磁力計(Vibrating Sample Magnetometer; VSM, 図11)と交番磁場勾配磁力計(Alternating Gradient force Magnetometer; AGM, 図12)で、古地磁気・岩石磁気の世界ではMicromagと呼ばれるPrinceton Measurements社(現在はLake shore社の傘下)の製品が広く使用されている。VSMは磁化した試料が振動することでピックアップコイルに生じる信号を測定するのに対し,AGMは試料が磁場勾配から受ける力を圧電素子で測るもので,やはり振動させて共振による信号を利用する. 両者とも磁気ヒステリシスの測定が高速・容易に出来ることが特徴である。感度はVSMで5x10-10Am2, AGMで1x10-12Am2であり(カタログ値による),AGMの方が2桁半感度が高く、磁化の弱い堆積物や微小な試料の測定に向いている.一方,試料重量のカタログ上限は VSM で 10 g, AGM で 200 mg であり、マウントの都合などから実際はこれより一桁程度軽い試料を測定することが多い。そのため、不均質な試料の測定にはVSMの方が有効である(とは言え、不均質な岩石(深成岩など)の測定には、VSMであっても代表的な部分を測定しているか注意が必要である).また、VSMはオプションを付けることで高温および低温での測定が可能であるが,AGMは低温測定のオプションのみが用意されている.さらに、VSMではヘッドを回転させ異方性を測定することもできる。VSMによる強磁場下での異方性と、弱磁場での異方性(帯磁率異方性)とを組み合わせることでユニークな情報を得られる。 これとは別に、主に低温測定で使われるMPMSも、室温かあるいは高温での強磁場測定に使うことができる。この場合測定時間およびランニングコストが桁違いに必要だが、得られる感度も桁違いに高い。 VSMにおける高温測定の機構では,試料の下部数mmのところに熱電対が位置し,加熱のためのヒーターはさらにその下側に位置する.したがって,試料の実温度と熱電対により計測される温度が数℃~10℃程度ずれることもしばしばで,測定データ解釈の際にはこの温度差に注意を払う必要がある.VSMは試料取付部がガラスもしくはカーボン樹脂およびプラスチックなどでできておりそれほど繊細な取扱は要求されないが(図13),AGMは試料取付プローブに圧電素子が組み込まれているため(図14),静電気や物理的な衝撃を与えないように繊細な取扱が要求される.
振動試料磁力計の測定原理 †図14のような条件で原点に置かれた磁気双極子(M, 0, 0) が点 A (x, y, 0) に作る磁気ポテンシャルは
双極子が z = a・exp(iωt) で単振動するとき
したがって,コイルの巻き数 N,コイルの断面積 S とすると,コイルに誘起される電圧 V は
Micromag VSM では,電磁石により磁場を生成し,磁場の中間点でサンプルを垂直方向に振動させる.図16はサンプル位置付近の概念図で,pole caps は電磁石の極に相当する.pickup coils は pole caps の先端に取り付けられており,サンプルに誘起された磁化を,その大きさに比例した信号(電圧)として検出する.Micromag VSM の振動周波数は f = 83.00 Hz であり,振幅は可変である.
出力磁場はサンプル近傍のホールプローブでモニターされるが、時にはプローブの校正をしたほうが良い。 交番磁場勾配磁力計の測定原理 †交番磁場勾配磁力計では,電磁石先端の pole caps に gradient coils を取り付けて交流的な磁場勾配を発生させる(図17).電磁石による強磁場がx 方向に発生して磁化 Mx が誘起され,磁場勾配も x 方向にある場合は,試料は Fx = Mx ・ ∂H/∂x の力を受ける.交流(交番)磁界の場合,磁界の方向はその周波数に応じて +/- 方向に変化するため,それに応じて試料にかかる力も変化し,+/- 方向に振動する.
実際には,試料はプローブに取り付け,プローブに内蔵された圧電素子によって試料の振動を電気信号として取り出す.試料とプローブの系は共振周波数を持つため,作用させる交流磁界の周波数をこの共振周波数に合わせることによって大きな信号を得ることができる. Micromag AGM の場合,マニュアルによると磁場勾配は 1.5 mT/mm (relative = 1), 150 μT/mm (relative = 0.1), 15 μT/mm (relative = 0.01)の3種を切り替えることができる.試料の磁化が強い場合は緩い磁場勾配を選んだほうが良い.試料の振動振幅は約 1 nm ~ 10 μm である.長時間の測定や磁化の強い試料の測定を行う場合は,敢えて振動周波数を共振周波数からずらした方がドリフトの影響を避けることができる. 参考文献 †執筆者・改訂履歴 †
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