概要 †岩石磁気学における異方性は、印加磁場の方位および強度と、誘導磁化ないし残留磁化の方位および強度との関連として定義される。粒子の磁化過程に対して磁化容易方向が大きな役割を果たしていることから、異方性から磁化容易方向の分布が推定できると期待される。特に磁鉄鉱の場合には形状異方性が磁化容易方向を支配しているため、粒子の伸長方位の分布が推定できると期待される(磁鉄鉱以外の鉱物については必ずしもこの限りではない)。方位の分布の偏りを一般に定向配列 (preferred orientation) と呼ぶ。定向配列が作られる原因は様々だが、しばしば関連付けられるのはせん断応力による粒子の回転である。例えば堆積物表面の流体運動(海流や風)、地すべり、断層運動に伴う岩石変形、変成作用、等がある。岩石内部の粒子配列を知るには、従来は大変な労力を伴う薄片作成と顕微鏡観察が必要であり、磁気異方性には大きな優位性があった。近年はEBSD法や画像処理手法、X線等のCT法の発展により、磁気異方性以外の手法でも定向配列を知ることができるようになってきており、多数あるツールの一つとして他分野にも目を配りつつ研究を行う必要がある。 理論 †測定 †異方性を表すために広く使われる関係式は以下の通りである ここで磁場h, 磁化mは3次元のベクトルであり、Kは2階のテンソル(3 × 3の正定値対称行列)である。厳密に言えばこの式は対象を連続体と捉える、個々の構成要素の異方性が同様の式で書ける、という仮定を置いていて、微小な磁性鉱物が分散している地質試料の、特に残留磁化については正しくない。もっとも、大多数の地質試料においては磁性鉱物の個数が十分であり異方性も小さいため、上式を近似として適用して実際上の問題はほとんどない。 式(1)が通用する場合、異方性測定の目的はKを推定することとなる。この式は線形方程式なので、線形代数(特に最小二乗法)を使うことで、m(測定される量)とh(コントロールできる量)からK(未知の量)を推定することができる。具体的には、 ただし、, で、それぞれ(n×3)行列であり、h1からhnは方位を変えた測定である。 特に誘導磁化を用いる場合、実験装置の制約により印加磁場に沿った磁化しか測定できないのが普通である。その場合でも同様に、最小二乗法で異方性テンソルを推定することができる。方向余弦を用いて磁場ベクトルを と表す。すると、式(1)に相当するものは、 ここでkij = kji に注意してcij={1 for i = j; 2 for else}として、ベクトルaを ベクトルlを とすると、 よって、最小二乗法は この場合、測定mがスカラーなのでMは(n×1)ベクトルであることに注意。 VSM測定でも、測定値は印加磁場に沿った方向の磁化と考える事が多い。ただし、測定原理を見れば分かる通りこの考えは厳密には正しくなく、非常に強い異方性のある場合や、測定磁場以上の保磁力を持つ磁化が卓越している場合には注意を要する。 最小二乗法であるので、このフィッティングに関する分散や、適当な分布を仮定した信頼区間も求めることができる。 解析 †Kを推定したとしても、これは(3×3)の行列であり、これをただ眺めるだけでは異方性の形状や大きさを把握することは難しい。解析方法の一つは図示することである。線形代数の知識を使うと、(3×3)の正定値対称行列による線形変換は、球を楕円体に変換することに相当することがわかる。この楕円体の表示から行列の性質を把握することができる(図1)。 :図1 すべての測定結果を立体的に図示するのは大変だが、さらに数学的知識を使うことでKをもう少し把握しやすい表現に変形することができる。Kは3次元の対称行列なので、3つの固有値λiと固有ベクトルviというものを持っており、その性質は である。これを磁気異方性の観点から述べると、viに平行な磁場をかけたときのみ、磁場に平行な磁化を獲得し、その方向での磁化獲得効率がλiである、ということになる。さらに、先程の楕円体で最も長い軸と最も短い軸、すなわち磁化しやすい方位としにくい方位が固有ベクトルの方位になる。これらをそれぞれ最大軸、最小軸と呼ぶ。残りの一つはこれらに直交する方向で、中間軸と呼ぶ。これら3つの固有ベクトルの向きと固有値でKを表現することができ、定量的理解や試料間の比較が容易になる。 3つの固有値の値を組み合わせた、より直感的な理解を助けるパラメータもしばしば使われる。Kappa bridgeで標準的に表示されるものはJelinekパラメータと呼ばれる2つの量(Pj, Tj)であり、それぞれ「異方性の大きさ」と「異方性の形状」を表現する。 実際の測定 †異方性で用いる磁性 †他の講義で紹介されたように、磁性を用いて磁性鉱物の種類や粒径などを区別することができる。この方法を異方性測定に適用することで、鉱物種や粒径を絞った異方性を得ることができる。これは、異なる起源(特に生成時期)や物性を持つ粒子の異方性を分析し、変形作用の時間発展を推定したり、逆に磁性鉱物の生成時期を推定したりすることに使われる。 まず大きく分けると誘導磁化(帯磁率)と残留磁化を用いた異方性測定がある。残留磁化を用いた測定は当然強磁性鉱物に限定した測定となる。近年では機器が発達し、特に誘導磁化については細かい違いを利用したテクニックが登場している。
カッパブリッジでは、このうち複素帯磁率はKLY5で、周波数依存帯磁率はMFK1, 2で測定するできる。残念ながらいずれも「ちきゅう」、JOIDESには搭載されていないが、コアセンターにはMFK1が導入されている。強磁場下での異方性は、VSMを利用することで測定できる。 参考文献 †
執筆者 †
初期帯磁率、AMSは以下の資料を元に編集した。 初期帯磁率 †
AMS †
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