ODP, IODPにおける古地磁気研究のハイライト †ODPフェーズにおける古地磁気研究は、パススルー型磁力計、コアの構造を乱さず数百mという長い堆積物を採取できるコアラー、u-channelサンプラー等の新しい技術の導入により堆積物の連続古地磁気データの蓄積が急激に進んだ。とくに JOIDES Resolution 号の APC (Advanced Piston Corer) の登場により、ほぼ 100 %の回収率で 200 m 近くのコアを未撹乱で入手できるようになった。これにより過去約 200 万年間の古地磁気データが蓄積され、膨大なデータに裏付けされた堆積物を使った地球磁場強度の変動や、地磁気逆転現象の研究が進展した。またODPフェーズでは古海洋学のため多くの航海が実行されたが、近代的な磁気特性測定器の普及により環境磁気学の分野も発展してきた。 IODPフェーズに入って、過去数百万年の古地磁気変動の解明を主課題とした掘削航海が北大西洋で実施された(Expeditions 303/306)。また、種々の古海洋学を主目的とする航海が行われ、過去約 200 万年間を遡る地球磁場強度変動の解明が進んだ。また、ODPフェーズではアクセスできなかった海域、例えば北極海へ進出しあらたな古地磁気研究の機会を得た。さらに、APCコアの詳細古地磁気測定の結果を利用したcyclostratigraphyにより、地磁気極性年代表の精緻化も進んだ。 地球磁場逆転現象の詳細な記録 †堆積物を使った連続地球磁場強度の復元が可能になり、逆転時の仮想地磁気極(Virtual Geomagnetic Pole; VGP)の軌跡がどのようなコースをたどるかをマントルーコアダイナミクスに関連づけ、多くの議論がされるようになってきた。Channel and Lehman (1997) (ODP Leg 162) などでは、地磁気逆転時にVGPは選択的にある地域を通過する事が示され、移動速度も一定でなく断続的な挙動であることが示された。とくに一番最近の逆転である Brunhes-Matuyama 逆転については,議論の余地があるものの,逆転時の全球磁場モデル(Leonhardt and Fabian, 2007)が提案されるに至っている。 堆積物を使った相対地球磁場強度の研究 †1990年前半から(ODP Leg 138; Valet & Meynadier, 1993)、堆積物の古地磁気測定に基づく地球磁場強度データの報告が急増した。これらをコンパイルした 800 ka までの地球磁場強度記録 S-int 800(Guyodo and Valet, 1999)が発表された。Valet et al. (2005)は、さらにこの記録を 2000 ka まで拡張した S-int 2000 を報告している。そのほか、さらに過去300万年程度までのデータの蓄積が進んでいる(e.g., Yamazaki and Oda, 2005; Channell et al., 2009)。また、強度変動に含まれる周期が議論されるようになった。2009年に実施された IODP Expeditions 320&321 "Pacific Equatorial Age Transect" ではEocene〜Mioceneの高品質の古地磁気極性記録が得られ、中期中新世(Ohneiser et al., 2013)、前期中新世~後期漸新世(Channell and Lanci, 2014)、漸新世~始新世(Yamazaki et al., 2013; Yamamoto et al., 2014)における相対古地磁気強度変動の推定が報告されている。 一方、確立した堆積物の相対古地磁気強度変動のパターンは、タイムスケールとして堆積物の高解像度年代推定に利用されるようになった(IODP Expeditions 303&306)。 地球ダイナミクス、テクトニクスへの応用 †信頼ある古地磁気データが得られるようになり、伏角から推定した古緯度に基づくプレート運動の議論がされるようになった。古緯度から海洋プレートやホットスポットの挙動を知ろうという研究がおこなわれた。ODP Leg 129 (マリアナ沖)では現在最も古い海洋地殻が掘削され、ジュラ紀から白亜紀にかけての太平洋における古緯度の研究がされた。 また ODP Leg 197 では、ハワイアンホットスポット起源である天皇海山の掘削が行われ、古い海山の古緯度は有意に現在のハワイの緯度と差異があることが再認識された(Tarduno et al., 2003)。50-80 Ma の期間に、ハワイのホットスポットは約15度南に動いたと見積もられている。これはホットスポットがプレートテクトニクスにおける固定点であるという地球ダイナミクスの基本的な考えを揺るがすことになった。同じ太平洋プレート上のホットスポット軌跡であるルイビル海山列の掘削が2010年12月~2011年2月にかけてのExpedition 330で行われ、ルイビルのホットスポットはあまり動いていなかったことも判明した(Koppers, Yamazaki, Geldmacher et al., 2012JpGU)。つまり、ハワイとルイビルのホットスポットを形作っているマントルプルームは別々の運動をしていることが示唆された。 掘削器が改良され、断層など複雑なセンスを持つ地質構造がリカバされるようになり、こういった構造の方位の復元が、残留磁化を使い頻繁におこなわれるようになった。例えば沈み込み体に発達する付加体掘削では、断層センスの方位づけや、帯磁率異方性を使った付加体の変形過程が研究された(バルバドス ODP Leg156; 南海トラフ地震発生帯掘削 NanTroSEIZE [e.g., Kitamura et al., 2010]) 白亜紀の地球磁場の議論 †地磁気逆転頻度が極端に少ない事から、白亜紀の地球磁場はここ数百万年とは全く違った状態であり、地球磁場の本質を垣間見るための格好の材料であると期待されている。また特異な火成活動で代表される地球内部ダイナミクスと関連づけられ、白亜紀の地磁気強度の様子に注目が集まった。地球磁場強度絶対値研究の対象として、深海掘削で採取された火山ガラスが注目され測定がおこなわれるなどしているが(Tauxe and Staudigel, 2004)、現在のところ、白亜紀の地球磁場が強かったか弱かったか、統一した見解にいたっていない。最近では、IODP Expedition 330でルイビル海山列から掘削されたホットスポット起源の火山岩全岩試料に対する絶対古地磁気強度測定の結果も報告されており、~65, 70, 74 Ma における古地磁気強度は現在の約半分程度であり、過去2億年間の平均値と同程度だったことが示唆されている(Yamazaki and Yamamoto, 2014)。 環境磁気学の導入 †ODP 時代には古海洋学研究を課題とした航海が非常に多く、過去数百万年内の年代をカバーするコアが多く採取された。これらの研究が進むなかで、堆積物の磁気特性を気候変動のプロキシー(代理指標)として用いる研究の流れができた。陸上のレス堆積物研究から発展してきた手法の適応、少量の試料で磁気特性を測定可能な機器の導入(MicromagやMPMS等)により、環境磁気学の研究が著しく発展した。 海洋地殻の磁化 †海洋地殻の地磁気異常に見られる Tinny wiggle は過去の地磁気強度変動を示しているという見解が強くなってきた。しかし、海洋地殻から上部マントルまで(キューリー点以下の深度)、地磁気異常の起源はどのレイヤーであるのか様々な意見がある。これは、依然として海洋地殻深部・上部マントルのデータが少ないためである。実際、現在までの最も深い掘削は海底下 2112 m までである。これまでで、唯一、海洋地殻第3層(ガブロ層)に達している掘削孔である中米沖の Hole 1256D は、2011年4-6月に Expedition 335 で更に掘削されたが、掘削深度にあまり進展はみられなかった。さらに、2013年以降の新たなIODPフェーズにおいて、「21世紀モホール計画」のようなライザーによる深堀により、深部岩石の磁化特性が明らかになることが期待される。 地磁気極性年代表の精緻化 †APCコアの高分解連続測定が系統的に行われるようになり、古地磁気極性境界が ~ 1 cm の精度で決定できるようになった。その他の測定データと合わせて cyclostratigraphy を適用することにより、地磁気極性年代表の精緻化が進んでいる。The Geological Time Scale 2012 (Gradstein et al., 2012)が最新の年代表である。 執筆者・改訂履歴 †
参考文献 †
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